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吃音と生きる 4 新人看護師はなぜ死んだか 『新潮45』2015年9月号

姉はワークショップの壇上に立ち、吃音のあった弟が死に至る経緯について話をした。もともと警察官を目指していたものの、何度受けても面接でうまく言葉を発せないことから落ち続け、看護師を目指すようになった。そして看護学校に入り、三四歳でようやく看護師として初めて正規の仕事に就いたのに、そのわずか四カ月後に自ら人生に幕を下ろしてしまったのです、と。/その言葉には、大きな悲しみだけでなく、飯島が勤務していた病院への強い怒りが込められていた。/「弟が自死するまでに至ったのは、病院での新人教育が原因だったのではないかと私たち家族は考えています」/彼は、緊張する場面で吃音が強く 出た。指導者はそれを知りながら、同僚たちがいる目の前で話す練習をさせたり、患者の前で怒鳴ったりした。そうやってどもる弟に特にきつく当たり、彼を追い詰めていったようなのだ、と。/「吃音を含めた人間性を、弟は否定され続けたのです」/声を詰まらせながら懸命に訴える彼女の言葉に私は心を動かされた。詳しく知りたい、知らなければならない。そう思った。いったい何があったのか。なぜ飯島は亡くならなければならなかったのか。
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