中央公論11月号「新刊この一冊」『「役に立たない」科学が役に立つ』

10月10日発売の中央公論11月号に、『「役に立たない」科学が役に立つ』(東京大学出版会)の書評を書きました。プリンストン高等研究所初代所長と現所長によるエッセイ集で、自由に研究することの重要性を説く一冊です。
書評記事がYahooニュースに掲載されていました(11月2日追記)

「有用性」や「有益さ」に捉われず自由に研究することがいかに大切かを訴える初代所長エイブラハム・フレクスナーの80年以上前の言葉は心を打ちます。

とりわけ心に残ったのは、結果的に大きな成果をあげられるから自由に研究するのが重要だ、というのではなく、<精神と知性の自由のもとで行われた研究活動は、音楽や芸術と同様に、人間の魂を解放し満足をもたらすという点だけで、十分に正当化されるべきなのだ>のように書かれている点です。フレクスナーの、学問への深い敬意が滲み出ています。

奇しくも日本学術会議の会員任命拒否問題によって、学問の自由にも危機を感じざるを得なくなってしまいつつありますが、だからこそ、いま広く読まれたい本です。

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「文藝春秋」6月号「令和の開拓者たち」の連載で、妙心寺・退蔵院の絵師・村林 由貴さんについて書きました。

5月9日発売の「文藝春秋」6月号「令和の開拓者たち」の連載で、妙心寺・退蔵院の襖絵70面超を描く、絵師・村林 由貴さんについて書きました。

600年の歴史を持つ妙心寺退蔵院の本堂の襖絵を、若い描き手に、寺に住み込み禅を学びながら描いてもらうというこのプロジェクトが始まったのは、9年前の2011年、震災直後のことでした。ぼくが取材を始めたのも同年8月です。

その絵師に選ばれたのが当時24歳の村林由貴さんで、当初は3年の予定だったものの、始まってみたら到底3年で終わるものではなく、9年が経った今も継続しています。

プロジェクト開始当初から、彼女が、禅と絵と自分自身とに向き合いながら、禅の修行をし、絵の技術を磨いて一歩一歩前進していく様子をずっと見続けさせてもらってきました。その姿を『新潮45』や『芸術新潮』などに書かせてもらってきましたが、最後に彼女について書いたのはすでに7年前、2013年のことでした。

その後、彼女は大きな壁にぶつかって、深い苦悩の時期を経ました。しかし立ち上がり、彼女自身大きく変化を遂げて、現在に至り、いよいよ最終局面へと来ています。

彼女が背負っているものの大きさや、しかし描き続ける情熱は、並大抵のものではないことをこの9年間、感じてきました。自分には想像することしかできない部分も多いものの、その生き様には本当にすごい迫力と覚悟を感じ、自分自身とても大きな刺激をもらってきました。20代~30代の10年をかけて絵を仕上げようとしている彼女の姿を、自分は、文章を書くことで伝えるべく、自分なりに力を尽くし、プロジェクトのこれまでを書きました。9年間の出来事を語りつつ、かつ時間の流れを十分に感じてもらえるものにするという点で、自分的に心残りの部分もあるものの、いずれより長い形で、書けたらとも思っています。

禅とは何か、芸術とは何か。彼女が積み重ねてきた日々は、普遍性のある様々な世界を見せてくれると感じます。
是非広く村林さんとこのプロジェクトについて知ってもらえたら嬉しいです。

今日も彼女は、描き続けています。

冒頭の写真は、ともに村林さんを9年前から取材してきた吉田 亮人さん撮影。

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京都新聞夕刊連載「旅へのいざない」が4月2日で最終回となりました

昨年春より月1回、京都新聞夕刊のアジアページに連載していた「旅へのいざない」が4月2日木曜掲載分で最終回となりました。
アジアがテーマだったので、国別はイランを最後として、最終回となった今回はまとめ的な内容にしました。これだけ世界が小さくなりながらも、互いに内向きになっている今の時代、個と個が繋がる大切さ、そのための旅の意義を痛感します。日々コロナのことで気持ちも生活も満たされてしまっていますが、再び自由に世界を旅できる日が来るのを楽しみにしつつ。

読んでくださった皆様、一年間どうもありがとうございました。

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児童書の新刊情報誌「こどもの本」にて山本有三著『心に太陽を持て』を紹介しました

児童書の新刊情報誌「こどもの本」(2020年4月号、日本児童図書出版協会)のコラム「心にのこる一冊」で、山本有三著『心に太陽を持て』を紹介させていただきました。

本とは無縁の幼少期を過ごしていた小学校時代の自分に、祖母がある日『君たちはどう生きるか』(何年か前に、漫画などの形で復活して大ヒットした本です)を勧めてくれ、読みました。その時おそらく初めて、本を読んで面白いなあと感じ、そのあとがきに紹介されていて、読んでみたいと思って手に取ったのが『心に太陽を持て』でした。

真っ直ぐに「心を打つ話」という感じの逸話を世界中から集めた短編集で、久々に思い出して読んだら、記憶に残っている話が多くて驚きました。自分はきっと、物事の考え方などにおいて、知らずしらずこの本の影響を受けてきたんだろうなあと感じました。そして改めて、子どもの頃に読む本って重要だなと思ったのでした。

って言っても自分はほとんど幼少期には本を読んでないのですが、この本をきっかけに山本有三だけは『路傍の石』をはじめ、何冊か読んだ記憶があります。

『心に太陽を持て』、80年以上も生き残ってきただけある名作です。もし気になったら是非手に取ってみてください。

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