村林由貴さんの襖絵が年末年始(22年12月24日~23年1月9日)に一般公開になります。

京都・妙心寺の退蔵院で絵師となった村林由貴さんの襖絵が、11年という期間を経て、5月に完成しました。

彼女については、ぼく自身プロジェクト開始当時から取材をしてきて、複数の雑誌に経過を書かせてもらいつつ、ずっとそばで見させてもらってきました。

寺に住み込み、一から水墨画を学びながら、厳しい禅の修行にも身を投じ、ただ、襖絵を完成させることだけに全てをかけた11年。

彼女は本当にストイックで、一時は修行僧のように張り詰め、心身ともに限界となり、寺からも絵からも離れなければならない時期もありました。しかし、そうした困難も自らの糧にしながら、水墨や禅を自らのものにして、村林さんは76面の襖絵を描き上げました。

退蔵院の門を叩いたのは24歳の時で、絵が完成したとき彼女は35歳になっていました。僕が村林さんの取材を始めたとき、現在の彼女よりも若かったことに、11年という時間のすごみを感じます。

立ち上がった絵を見たとき、僕自身も、言葉にならない気持ちになりました。その一筆一筆に込められた魂と熱量に、心を揺さぶられました。

その絵が、年末年始に一般公開になります。是非是非この機会に、多くの人に見ていただきたいです。

これだけの時間をかけて一つの作品を生み出すというのはどういう気持ちなんだろう。何度も彼女に直接聞いているものの、やはり彼女自身にしかわからないことのように思います。

自分にわかること、言葉にできることは限られているけれど、でも、自分なりの感動や思い入れ、村林さんに対する尊敬の念を、なんとか僕も一冊の本として世に問うべく、いま苦闘しています。

プロジェクトの概要については、2年前、「文藝春秋」2020年6月号に書いた拙稿をごらんいただければ。(途中まで下のリンクから読めます)

https://bungeishunju.com/n/n0f7362aa2e7c

村林さんが、文字通り人生を削って描き上げた魂の襖絵を、多くの方に見ていただけますように!

読売夕刊「ひらづみ!」22年9月5日掲載 『基礎からわかる 論文の書き方』

講談社現代新書の話題の書『基礎からわかる 論文の書き方』(小熊英二著)についての書評です。「論文の書き方」という、一部の人にしか関係なさそうなタイトルながら、広く読まれているのはなぜか。読んで納得しました。学問とは何か、科学的に考えるとはどういうことか、といったことを考えさせてくれる一冊です。論文を書かない方も是非。

読売夕刊「ひらづみ!」22年8月1日掲載 『砂まみれの名将 野村克也の1140日』

だいぶ間が空いてしまいましたが、8月に掲載になった読売夕刊「ひらづみ!」欄の記事です。加藤弘士さんの『砂まみれの名将 野村克也の1140日』。野村監督が社会人チーム・シダックスを率いた日々を描いた異色の野村本。同じくこの欄に4月に書評を書いた『嫌われた監督』と併せて読むのも楽しいです。どちらも是非。

かつて書いた、スバンテ・ペーボ氏の『ネアンデルタール人は私たちと交配した』の書評です。

ノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表され、スバンテ・ペーボ氏という名前と、ネアンデルタール人の遺伝子配列を解読、ということに聞き覚えがあるなあと思っていたら、初めて新聞書評を書いたのが、氏の『ネアンデルタール人は私たちと交配した』だったことと思い出した(共同通信配信)。2015年のこと。難解な部分もあったけど情熱が伝わる一冊だった記憶があります。本を読み終えるのも、書評を書き終えるのにもだいぶ時間がかかった記憶も。写真は岩手日報、2015年8月9日。