「文藝春秋」6月号「令和の開拓者たち」の連載で、妙心寺・退蔵院の絵師・村林 由貴さんについて書きました。

5月9日発売の「文藝春秋」6月号「令和の開拓者たち」の連載で、妙心寺・退蔵院の襖絵70面超を描く、絵師・村林 由貴さんについて書きました。

600年の歴史を持つ妙心寺退蔵院の本堂の襖絵を、若い描き手に、寺に住み込み禅を学びながら描いてもらうというこのプロジェクトが始まったのは、9年前の2011年、震災直後のことでした。ぼくが取材を始めたのも同年8月です。

その絵師に選ばれたのが当時24歳の村林由貴さんで、当初は3年の予定だったものの、始まってみたら到底3年で終わるものではなく、9年が経った今も継続しています。

プロジェクト開始当初から、彼女が、禅と絵と自分自身とに向き合いながら、禅の修行をし、絵の技術を磨いて一歩一歩前進していく様子をずっと見続けさせてもらってきました。その姿を『新潮45』や『芸術新潮』などに書かせてもらってきましたが、最後に彼女について書いたのはすでに7年前、2013年のことでした。

その後、彼女は大きな壁にぶつかって、深い苦悩の時期を経ました。しかし立ち上がり、彼女自身大きく変化を遂げて、現在に至り、いよいよ最終局面へと来ています。

彼女が背負っているものの大きさや、しかし描き続ける情熱は、並大抵のものではないことをこの9年間、感じてきました。自分には想像することしかできない部分も多いものの、その生き様には本当にすごい迫力と覚悟を感じ、自分自身とても大きな刺激をもらってきました。20代~30代の10年をかけて絵を仕上げようとしている彼女の姿を、自分は、文章を書くことで伝えるべく、自分なりに力を尽くし、プロジェクトのこれまでを書きました。9年間の出来事を語りつつ、かつ時間の流れを十分に感じてもらえるものにするという点で、自分的に心残りの部分もあるものの、いずれより長い形で、書けたらとも思っています。

禅とは何か、芸術とは何か。彼女が積み重ねてきた日々は、普遍性のある様々な世界を見せてくれると感じます。
是非広く村林さんとこのプロジェクトについて知ってもらえたら嬉しいです。

今日も彼女は、描き続けています。

冒頭の写真は、ともに村林さんを9年前から取材してきた吉田 亮人さん撮影。

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『ペスト』と『コロナの時代の僕ら』

やはりのブックカバーチャレンジの流れでFBに書いた本の感想をこちらにも。
取り上げるのは、最近読んだ、いま話題の2冊です。

『ペスト』(カミュ)
『コロナの時代の僕ら』(パオロ・ジョルダーノ)

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『ペスト』は、80年ほど前に書かれたカミュの代表作の一つで、ペストが流行って封鎖された町で生きる人々の様子を描いた、現代に通じる作品です。
が、正直、読むのに相当時間がかかってしまい、途中しんどかったです。。しかし読了後に「100分de名著」を見たら、そんな熱い人間関係と物語が展開していたのか!とびっくり(笑)。全然理解できていませんでした。文章が、なんだか読みづらくて、細部が頭に入ってこず。世界的名著と言われる作品なので、自分の読解力のせいなのかとも思いつつ、いや、翻訳が悪いのか、そもそもこういう文体なのか、とか悩む始末…。

ただ、封鎖されたアルジェリアの町で生きる人たちの様子が、現在の状況と驚くほど似てる部分があったりして、いまも昔も、人間の本質が変わらないのを感じ、読みながら不思議な気分になりました。

『コロナの時代の僕ら』は、若きイタリア人作家によるエッセイ集で、おそらく初めての世界的なコロナ文学的作品。本文を成す27篇の短いエッセイは、著者のちょっとした気づきを書き留めたといった感じの印象だったけれど、あとがきは、評判通り、とても美しく心に残るものでした。コロナ騒動が始まったあの時期に、自分が何を思いどう行動したかを、きっと読者一人ひとりに思い返させてくれるとともに、これからどう生きるべきかを考えさせてくれる文章だと思います。

『ペスト』では、主人公にとっての大切な人が、病気で、封鎖された町の外にいて、主人公と会うことができず連絡も取れないまま亡くなってしまうのですが、主人公はそのことを8日後(?)に知るという場面があります。

一方、『コロナの時代の僕ら』では、僕が読み終えたあとにそのことをツイートしたことをきっかけに、この本の訳者でイタリア在住の飯田亮介さんと、その10分後ぐらいにはやり取りをしていました。飯田さんの日本語訳が美しかったことに加え、彼がかつて中国の昆明に留学していたのを経歴を見て知り、奇遇だったので、つい連絡を取りたくなり…。

主人公が大切な人の死を知るのに8日間かかった『ペスト』の時代と、読後10分で異国にいる訳者とやり取りできる『コロナの時代の僕ら』の時代。そんな、人と人との距離感の違いが、各作品に描かれた時代に通じ、そしてそれぞれの時代の感染の広がり方にも通じるのだなあと、しみじみ感じたのでした。

興味あるかたは是非~。

京都新聞夕刊連載「旅へのいざない」が4月2日で最終回となりました

昨年春より月1回、京都新聞夕刊のアジアページに連載していた「旅へのいざない」が4月2日木曜掲載分で最終回となりました。
アジアがテーマだったので、国別はイランを最後として、最終回となった今回はまとめ的な内容にしました。これだけ世界が小さくなりながらも、互いに内向きになっている今の時代、個と個が繋がる大切さ、そのための旅の意義を痛感します。日々コロナのことで気持ちも生活も満たされてしまっていますが、再び自由に世界を旅できる日が来るのを楽しみにしつつ。

読んでくださった皆様、一年間どうもありがとうございました。

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児童書の新刊情報誌「こどもの本」にて山本有三著『心に太陽を持て』を紹介しました

児童書の新刊情報誌「こどもの本」(2020年4月号、日本児童図書出版協会)のコラム「心にのこる一冊」で、山本有三著『心に太陽を持て』を紹介させていただきました。

本とは無縁の幼少期を過ごしていた小学校時代の自分に、祖母がある日『君たちはどう生きるか』(何年か前に、漫画などの形で復活して大ヒットした本です)を勧めてくれ、読みました。その時おそらく初めて、本を読んで面白いなあと感じ、そのあとがきに紹介されていて、読んでみたいと思って手に取ったのが『心に太陽を持て』でした。

真っ直ぐに「心を打つ話」という感じの逸話を世界中から集めた短編集で、久々に思い出して読んだら、記憶に残っている話が多くて驚きました。自分はきっと、物事の考え方などにおいて、知らずしらずこの本の影響を受けてきたんだろうなあと感じました。そして改めて、子どもの頃に読む本って重要だなと思ったのでした。

って言っても自分はほとんど幼少期には本を読んでないのですが、この本をきっかけに山本有三だけは『路傍の石』をはじめ、何冊か読んだ記憶があります。

『心に太陽を持て』、80年以上も生き残ってきただけある名作です。もし気になったら是非手に取ってみてください。

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